「島本町・大山崎村史跡勝鳥瞰図」(令和4年2月17日掲載)
タカラ この前、図書館で調べものをしていたら、大山崎や島本を空の上から
眺めたようなカラーの地図を見たよ。
ホタル へぇ。どんなのだったの?
タカラ 島本と大山崎を中心にして兵庫県から滋賀県まで載っていた作品だった
よ。しかもとても立体的でわかりやすいんだ。これを描いた人はどんな人
だったのかな?
ホタル それってもしかしたら、鳥瞰図絵師(ちょうかんずえし)の吉田初三郎
(よしだはつさぶろう:1884~1955)という人の絵かな?
彼の『京阪電車御案内』(大正2年)という作品が、皇太子時代の昭和天皇
から「これは奇麗で解り易い」と賞賛されたことに喜び、生涯に1600点以
上もの作品を描いたと言われているんだ。作品の特徴は、大胆な構図と
鮮やかな配色にあるんだよ。
じゃ、実際に資料館へ行って本物を見てみようよ。
これが、その「島本町・大山崎村史跡景勝鳥瞰図」だよ。
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「島本町・大山崎村史跡景勝鳥瞰図」吉田 初三郎
タカラ あ!僕が前に見たのもこれと同じ構図だよ。でも、この資料館にある方が
以前図書館で見たものより、色が鮮やかだ。
ホタル そう。これは絹本(けんぽん)に実際に絵の具を使って描いた原画なんだ。
この絵をベースにして、新しい印刷用の版をつくり、観光パンフレットが
印刷されていたんだよ。
タカラ へぇ。いろいろと詳しいね。ちょっと解説してよ。
ホタル 大正から昭和の初め、交通の発達に伴って、国内観光が流行したんだ。
そのブームの中、日本内外の旅行パンフレットに鳥瞰図を取り入れたのが
「大正の広重」と呼ばれた吉田初三郎なんだよ。(広重=歌川広重(1797~
1858)。江戸時代後期の浮世絵師。数多くの東海道・江戸名所の風景画を
手掛けたことで知られる。)
タカラ そうなんだ。でも、そもそも鳥瞰図ってどういう意味なんだろう?
ホタル それはね、空を飛ぶ鳥の視点から地上を見おろしたように描いた図のこと
で、建物や山などの立体感や遠近感がよく描かれ、街の広がりや地形などが
とても分かりやすいんだよ。
タカラ 今でいうパノラマかな?
ホタル その先駆けになるのかなぁ。この作品は昭和32年(1957)頃と言われ
2代目初三郎(朝太郎)の時に完成してるんだよ。でも、昭和30年に亡くな
った初三郎(1代目)も関わった可能性が高いと思われるんだ。しかものこ
の図は印刷物のもとになった原画なんだよ。
例えば1.【山崎のサントリーウイスキー工場】の建物が見えるでしょ?
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サントリー山崎蒸留所付近拡大
タカラ ほんとだ!でも、「壽屋」と書いてある。
(見にくいですが、書いてあります)
ホタル それはサントリーの昔の屋号だよ。
タカラ あと二つ大きな煙突のような建物が目立つけど、今はあんな建物あったかな?
ホタル これは、昭和30年代まで使われていた麦芽乾燥塔という建物だよ。
ウイスキーの蒸留には麦芽を乾燥させてから、アルコールで発酵させる工程
を踏むんだけど、乾燥のために使われた建物だったんだって。
タカラ へぇ。すごいね。
ホタル 今はもうこの工程はやっていないらしいんだ。今の建物ではシンボル的に
麦芽乾燥塔の名残が残っているよ。
タカラ こうやって見ると本当に面白いね。他にも同じように昔と今と比べられる
ものってあるのかな?
ホタル そうだね。島本町の水無瀬神宮や桜井駅跡、大山崎村(当時)の離宮八幡宮、
宝積寺、観音寺も建物一つ一つが正確に描かれているよ。
2.の淀の【京都競馬場】なんかもちゃんと、描かれているところを見ると、
写真を集めたり足を運んで調査していることがよくわかるよね。
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京都競馬場拡大
タカラ うんうん。すごいねぇ。あれ?2.【淀の競馬場】の左斜め上の方、
長岡天神て書いてある付近にも円形の同じようなものがあるよ。これは何?
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長岡競馬場拡大
ホタル よく見つけたね。この作品作成当時には、長岡天神のこのあたりにも
競馬場があったんだよ。
タカラ え?こんなところにもあったの?
ホタル そうなんだ。昭和4年から昭和31年まで開催されていたんだよ。
今はなくなって敷地の輪郭などが道路として当時の面影が残っているよ。
カラ へぇ。こうやって見ると面白いね。あれ?宝積寺と観音寺の間に
3.【植物園】て書いてある!こんなのあったっけ?
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アサヒビール大山崎山荘美術館付近拡大
ホタル そこは今のアサヒビール大山崎山荘美術館だよ。昭和前期の実業家、加賀
正太郎の別宅だったんだ。加賀正太郎は温室をつくり、たくさんの蘭の栽培、
交配していたことで知られているでしょ。
だから「植物園」と表されたんだろうね。でも、当時は正太郎は
亡くなっており、加賀家個人宅になっていたよ。だから調査とかも
できなかったかもしれないね。実際の建物と似ても似つかない建物が描かれているんだ。
タカラ そっか。個人宅だから、写真も手に入らなかったかもしれないね。
ホタル でも、他のところはとても詳細に描かれていて、足しげく通って
調査したことがとてもよくわかる資料だよね。
タカラ うん。とても分かりやすいし、なにより当時の景色が目に浮かぶみたいでとても楽しいよ。
あ!もう一つ見つけたよ!天王山の左側のほうに カエルさんがいるね
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蛙の京阪見物(拡大)
ホタル そうだよ。これは江戸時代に広がった『大坂のカエルと京都のカエル』
じゃないかと思ってるんだ。
タカラ 『大坂のカエルと京都のカエル』?それって何?
ホタル これは江戸時代後期の「鳩翁道話」に登場する京都のカエルと大坂のカエルだね。
江戸時代の笑話集で、大坂のカエルと京都のカエルがここ天王山【大山崎】
で出会って、双方が町の自慢比べをしたんだ。それで、天王山からそれぞれが
背伸びして相手の町を見たところ、目が後ろについているから、結局、
それぞれが自分の町を見て、「大坂は京と同じだ」「京は大坂と同じだ」と
思って、引き返したお話だよ。
ホタル そんなお話があるんだ。面白いね。
タカラ 大山崎の町は京都と大阪のそれぞれの人々から文芸の題材にも
利用されていたことが分かるよね。
ホタル そうなんだ。現在でも民話としてとても親しまれているんだね。
図に戻るけど他にも、道にバスが走っていたり、線路には電車が
走っていたり当時の様子がよくわかるね。
タカラ そうだね。なんだか子供のころの遊び心をくすぐるような描き方で、
細かく見るともっと、いろんなことが分かるかもしれないね。
ホタル こうやってじっくり見ていると楽しいよね
タカラ うん。本当にいろいろ描いてあってそこからいろんな話も広がって
楽しいね。ありがとう。
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更新日:2022年02月17日